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トヨタがハイブリッド技術の特許を無償公開
2019年4月3日、トヨタ自動車はプリウスやアクアなどで長年培ってきたHV(ハイブリッド)技術の特許(23,740件)を無償で提供することを発表しました。
ハイブリッドといえばトヨタ、世界的な環境問題という観点からも、最も環境にやさしく実際に貢献しているのはハイブリッド車であるといっても過言ではないでしょう。
そんな虎の子ともいえるような大切なテクノロジーを、なぜ今、ライバル各社に無償で提供しようというのでしょう。単に太っ腹というだけではない問題があるのではないでしょうか?
ハイブリッド車こそ、最も環境にやさしい理由とは
今回のトヨタの発表に対して、もはやEVの時代に突入しつつあり、HVが時代遅れとなったからだという意見が多く見受けられますが、本当にそうでしょうか?
現時点では、トヨタのハイブリッド車は世界中で1,300万台以上が走っていますが、これに対して、EVは世界中でも300万台前後という状況です。環境対策車の場合には、普及しなければ意味がありませんので、現状ではトヨタのハイブリッド車は、クルマという分野の中では最も環境に貢献しているといえるでしょう。
現に、欧州委員会がオフィシャルに公表した2017年の自動車メーカー各社のCO2排出量の実績値を見ると、トヨタがナンバー1となっているのです。EVを作っている自動車メーカーが必ずしもCO2排出量が少ないわけではないというのが実情なのです。
日本のように、原発反対論者が多くいる場合には、必然的にコストの高い火力発電に頼らざるを得なくなりますが、すると、EVではCO2を排出しなくとも、その消費電力では大量のCO2を排出しているということになってしまうわけです。
つまり、HVやPHVというテクノロジーは、時代遅れになっているわけではなく、消費者が選択する間はまだまだ活躍できる余地は残っているのです。
ちなみに、国策としてEV化を決めている中国では、原子力発電所がどんどん作られていますし、それ以外の国ではEVは補助金付きで利用されているというのが実情です。
何のための特許無償提供なのか
それでは何のために無償提供を行うのでしょうか?
もちろん、そこにはトヨタ自動車としての戦略があります。トヨタとしても、このまま永遠にHVでやって行けるとは思っていないのは当然です。ますます強化される温暖化規制下の下では、HVでは規制がクリアできなくなるでしょう。
そうなると、次のトヨタの戦略としてはPHV(プラグインハイブリッド)でしばらくは乗り切ることになります。残念ながら、現時点ではHVほど普及はしていないPHVですが、一度運転したことのある人なら、その走りの良さはEV並みであることを体験しているはずです。
では、トヨタ自動車はEVについてはどう考えているのでしょうか?
トヨタとしても、そう遠くない将来には必ずEVの時代がやってくることは避けられないと考えています。ただし、それには条件があり、バッテリーが進化して安価で軽量かつエネルギー容量があがることが必要です。長期的には実現されるでしょうが、それはこの10年とかの問題では無理だと判断しているようです。
つまり、環境問題を抱えながら、EVが普及する時代まではHVとPHVで乗り切るしかないというのが、トヨタ自動車の考え方であり、そのためのHV技術特許の無償提供と考えるほうが分かりやすいでしょう。
無償提供はどうやって実現されるのか
今回は特許を単純に提供するというわけではなく、有償とはなりますが、それをクルマにフィットさせるノウハウも提供することになっています。自動車開発にはノウハウがつきものであり、ただ単に特許や部品が提供されてもクルマを作ることはできません。
そのために、トヨタは技術協力もしますし、世界各国からの要望に応えられるように、外部エンジニアリング・コンサルタント会社と協力することも計画されています。
もちろん、トヨタは慈善団体ではありませんから、上記のように技術協力などは有償となりますが、これでぼろもうけしようという考えはなく、あくまで最低限のものであり、利益のためというよりはHVやPHV普及のために行なうというところです。
トヨタは、環境車を世界に普及させるということを自社の目標としており、HVやPHVのみならず、EVやFCVについても同様の方針を取る予定といいます。
世界のトヨタといえども、こんなことして大丈夫なのか?
さて、ここまででは、トヨタは今回の特許公開でぼろ儲けする気はなく、それよりもむしろ環境車を世界中に普及させることが目的といいます。志は立派ですが、さすがに世界のトヨタといえども、こんなことして大丈夫なのとほとんどの方は考えるでしょう。
そこには、トヨタ自動車としての大きな戦略転換という問題があるのかもしれません。
ご承知のように、今後の自動車業界ではEVがデフォルトとなっていきますが、上記のように現時点でEVが普及するのは中国タイプやノルウェータイプ(補助金付き)に限定されており、それ以外の国の消費者は必ずしもEVではなく、もっと環境に優しいHVやPHVを選択する可能性もあるわけです。
もともとトヨタは、HVやPHVでこの状況を乗り切ろうという考え方であったでしょうが、国内はいざ知らず、海外メーカーとの競争になると、いかに技術面や環境面での優位性があったとしてもそれだけでは競争に勝てないということをトヨタは身をもって学んだのではないでしょうか?
つまり、他社がまねできないような優位性を持つ技術で勝負するよりも、世界各国に仲間を増やして、トヨタ方式として一緒に成長していくほうが世界で戦うためには大切であると判断したようです。
本当の意味での自動車メーカーからモビリティカンパニーへ
もう一つ忘れてはならないのは、モビリティライフの大きな変化です。クルマとは「所有する」から「利用して楽しむ」時代に移行しつつある今、自動車メーカーとして大きな方向転換を迫られているという事情があります。
トヨタ自動車も、盛んに「自動車メーカーからモビリティカンパニーへ」という広告を流しているように、大きな方向転換をする予定です。すでに「KINTO」やカーシェアリングサービスへの参入や、ソフトバンクとの提携など、これまででは考えられなかったような戦略を打ち出しています。
もはや、製造から販売していくだけの企業ではないわけですから、HVやPHVの特許にしても、自社でのみ利用するよりも、世界中の企業と一緒になって利用するほうが理に適っていますし、得策だと考えているのではないでしょうか。
まとめ
昨年あたりから、次々に世間を驚かすようなニュースを提供するトヨタ自動車ですが、今回は遂に自動車メーカーとしては虎の子とも言えるHV特許を無償でライバル各社に提供することを発表しました。
すでに、トヨタは「KINTO」やカーシェア参入なども行っており、国内のカーシェアリングサービスにも大きな影響を及ぼしそうです。
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