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免許返納しない高齢者は悪なのか
日本のニュースやワイドショーでは、どこも同じニュースや話題ばかりが提供されています。そして、世の中的にはそれほど大きなニュースや話題がないタイミングで、視聴者受の良いニュースが流されています。注意深く見ていると、この手のニュースの場合には非常にいい加減な取材、または都合の良いデータだけを用いていることがよくあります。
先日も女性キャスターがメインを務めるあるワイドシューで高齢者の交通事故問題が報道されていました。
報道の内容をまとめると、
・連日のように高齢者の運転ミスによる交通事故が発生している
・高齢者の運転ミスによる交通死亡事故が増加している➤社会問題化している
・免許返納➤有名芸能人の免許返納➤なぜ高齢者は免許返納しないのか
というものでしたが、最後には、東京都内の免許センターまで出向いて、免許更新している高齢者に「何故、免許を返納しないのか」「高齢者による交通死亡事故が増加していることをどう思うのか?」と、あたかも免許返納しないことが悪いことのようにまくし立てていました。
番組では、さすがに、コメンテーターの1人が「なんか、免許返納しないことが悪いことのように報道されていますが、これって法律で認められていることで、免許更新している人は法律を守っているだけなんですけど?」といってしまったために、スタジオが凍り付いていたのは印象的でした。
高齢者運転による交通死亡事故は本当に増えているのか
この手の報道の際に使われるのはいつもこの資料です。
警察庁のこの資料は、75歳以上の高齢者の運転による交通死亡事故件数、および割合です。平成18年には7.4%しかなかったものが、平成28年には13.5%まで急増している、というものです。よく見ると、平成18年には423件だったものが、平成28年には459件に増えているだけです。
このからくりは、交通死亡事故件数が平成時代には大きく減少しましたので、割合だけは大きくなっているだけのことです。わかりやすく言うと、全体の交通死亡事故件数が大きく減少したけれども、高齢者運転による事故件数はこの10年ではそれほど変化していないということです。
しかし、それでも若干数とは言え増えているではないか、という人もいらっしゃるかもしれませんので、次のグラフを見てください。
少子高齢化時代の人口構造
これも警察庁が出している資料ですが、これはこれから日本が迎える高齢化社会の人口構造をグラフ化したものです。こちらを見ると、平成17年の75歳以上の人口は約1160万人で、平成28年の75歳以上の人口は1691万人となっています。つまり、人口は、ほぼ1.5倍に75歳以上の高齢者は増えていることがわかります。
これは言うまでもありませんが、団塊の世代と言われた世代が高齢者になっていることで、日本の人口構造が65歳以上の方が4人に1人という状態になっていることをあらわしています。
ちなみに、平成28年の75歳以上の人口は、全人口の13.3%となっており、上のグラフの75歳以上の方の交通死亡事故件数割合である13.5%とほぼ近似値となります。
75歳以上の運転免許保有者数
さらに、75歳以上の方の運転免許保有者数を見てみましょう。
同じく警察庁の資料ですが、平成18年に75歳以上の運転免許保有者数は約258万人で、平成28年には513万人となっています。何とほぼ2倍に増えていたことになります。
自主的に、もしくはテレビ報道などを見て免許返納した人もいるでしょうから、実際には2倍以上であったことになると思われます。
平成18年と平成28年の日本の総人口数はほぼ変わっていませんので、75歳以上の高齢者による事故件数が増えたというのであれば、平成18年423件が平成28年に459件ですから、ここをきちんと説明してもらわなければ納得がいかないというところでしょう。
昭和の時代には年間で1万人以上の方が交通事故で亡くなっていましたが、関係各位の努力やクルマテクノロジーの向上により、平成の時代には大きく減少し、平成30年には3500人強というところまで激減しているのです。
高齢者の運転ミスによる交通死亡事故が増加しているというニュースは、これらのデータを見る限り正確とは言えず、75歳以上の高齢者の交通事故死者数の割合も本当は減少していると考えるほうが妥当でしょう。
ニュースに都合の良いデータだけで作られたニュース
警察庁の名誉のために言っておきますが、これらのデータはすべて同じ警察庁のホームページで簡単に調べることが可能です。というか、わずか数分ですぐに確認できるほどです。
警察庁はあくまでデータとして資料を公表しているだけであり、そこに高齢者の運転ミスによる交通事故者者数が増加しているだとか、あるいは、免許返納を促すようなことは一切記載されていません。
冒頭のワイドショーを制作したテレビ局もしくは制作会社には、これらの資料は言うまでもなく全部簡単に確認できたはずです。ところが、番組で利用されていたのは、一番上の75歳以上の高齢者の運転ミスによる交通事故死者数の割合が増えているというグラフだけでした。
高齢者の運転ミスによる交通事故と免許返納は全くの別問題
ワイドショーによる「高齢者の運転ミスによる交通死亡事故」のニュースを見て、真剣に免許返納を検討している人は少なくないでしょう。
もちろん、免許返制度の是非を問うつもりはありませんし、場合によっては、免許返納したほうがよいケースも多いと考えられます。
しかしながら、ワイドショーで幕間つなぎ的に報道されている「高齢者の運転ミスによる交通死亡事故」が増えているというデータには欠けている部分が非常に多く、正確な情報とはかけ離れているということは指摘しておきたいと思います。
高齢者の人口増加率から考えると、高齢者の運転ミスによる交通死亡事故は増加しておらず、これと免許返納を結び付けるということは全く論理的に成り立たないということになりそうです。
交通死亡事故は年齢に関係ない?
交通事故が悲惨なことであることはもちろんですが、警察庁のデータを見る限りにおいては交通死亡事故と年齢の関係性を見出すことは難しいでしょう。
若い時であれば、徹夜でドライブしたり、スピードを出したりと無理がききますが、高齢者となるとそういうわけにはいかずに、長距離ドライブを楽しむというケースは若い時と比べると減少するでしょうし、多くの場合には買い物などでの利用というのがほとんどなのではないでしょうか。
様々な理由があるのでしょうが、交通事故のデータからは交通死亡事故は運転者の年齢には関係ないということは明らかです。
まとめ
カーシェアリング最大手のタイムズカーシェア(旧タイムズカープラス)の調査によると、新規登録者を年齢別で見ると高齢者の伸び率が最も高いとのことですが、これも高齢化社会における高齢者人口が大幅に伸びていることがその要因であることは疑いありません。
高齢ドライバーによる交通事故問題が連日のように報道されていますが、上記のように免許返納だけでは有効な対策とはならないようです。(そもそも免許返納制度とはそのような趣旨のものでもありませんが)
必要な時だけ利用するカーシェアや地方での交通手段としても期待されるライドシェアは、高齢者のマイカーの代わりとして機能しそうですし、自動運転化時代にはこのような話もなくなることになるでしょう。
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